解説:
寺田 兵衛 [てらだ ひょうえ]
久保 竣公の父親。『穢れ封じ御筥様』教主。
箱屋(寺田木工製作所)を始めた寺田 忠と妻・寺田 正江の息子で、箱屋を継いだ箱職人。父・忠と違って、職人としての腕前は良いが、近所付き合いは不得意で、段々と“箱を作ること”に取り憑かれるようになったと言われている。
神経の病から子供(竣公)の面倒を看なくなった妻(寺田 サト)に困惑して、次第に妻と子供を煩わしく思うようになり、ついには(食事以外の)二人の世話を止めて大好きな箱作りに没頭するようになるが、出兵中に戦地で死ぬような目に遭い、そこで初めて家族を思う“人間の心”を取り戻した。
ところが、復員してみると妻・息子の行方は知れず、家の中に放置されていた誰かの指4本(後に竣公のものと判明)が入った鉄の箱を屋根裏に隠すと、その後は余計に人付き合いが悪くなり、頑に心を閉ざして再び箱作りに逃避するようになった。
昭和25年の11月、行方知れずだった息子・竣公が箱屋に現れ、以降、兵衛を責め苛むように続けられた竣公の問わず語りによって兵衛は心の均衡を破られ、竣公の心の闇に魅入られてしまう。その年の大晦日に隣家・五色湯の屋根裏から祖母が預けた“魍魎”と書かれた紙切れの入った桐の箱(実は、兵衛の祖母の千里眼実験の為に福来博士が持参した『千里眼鑑定セット』だった)が見つかり、自分が屋根裏に隠した“竣公の指が入った箱”との偶然の符合から自分の運命(不幸話の蒐集)を悟る。また、塗り職人・ヤマさんの不幸に対する饒舌な励ましを聞いて激昂した竣公に散々殴られたことをきっかけに竣公の下僕と化してしまい、こうして『穢れ封じ御筥様』が始まり、(竣公の言いなりではあったが)兵衛自身はそれまで隠されていた自分の才能や欲求を見いだして“御筥様”教主の役を務めていた。
中禅寺 秋彦の“御筥様”退治によって化けの皮が剥がされ、自ら警察に出頭するように仕向けられる。
その後、喜捨を全部信者に返し、足りない分は家を売って充てた。また、警察の取り調べが済んだら出家するつもりである。